「北朝鮮の使者は何を伝えたか~青森」

 おそらく朝鮮中央通信などでは報じてはいないだろう。

 このニュース。

 自国民が逃亡した。その件がニュースにならない。彼の国では。


 仮にニュースになるとしたら、北朝鮮の報道機関は、こう伝えるだろう。

 「日本人が攻撃を仕掛けてきた」

 「情報戦を」


 ただ、亡命者を想起させる情報としては報道しないだろうが。

 すごい国だ。

 統治者が世襲で、その権力者への絶対服従が求められる。その人の「徳」のあるなしに関わらず。


 「この体制もあと数年」

 と言われて久しい。

 なぜ民衆は立ち上がらないのか。


 取り巻いている資本主義の国々は、自己崩壊をひたすら待っているように見える。

 「北朝鮮」という国が「保存」されてきた理由はいくつかあるが、その第一は「周辺の社会主義国の援

助」であろう。「北朝鮮」という国への影響力を誇示することが自国の威の証明になるのだ。北朝鮮は自

ら「外交」の道具になることを是としている。

 
 北朝鮮は「国家の維持」を。

 取り巻きの社会主義国は「外交成果」による「自国の発言力向上」をそれぞれ目標とする。

 どちらも、それほどの望みではない。ただ、どちらもこの平和なご時世においては簡単には得られない

ものになっているのだ。 


 時折北朝鮮の意向は「国家の維持」の埒外に出る。

 確かにデモンストレーションなのだ。

 しかし、私はこれについてはあくまで「自国民」向けのものだと思うのである。


 ミサイルを発射しようが、スパイをどこかへ送ろうが、核を保有する試みについてもである。

 北朝鮮という国の目的は一つ。

 「国家の維持」に他ならない。他国への興味など(「維持」に関わらない限り)ないのだ。

 
 「国家」としてのまとまりが怪しくなってきた時、北朝鮮はこういった方策に出ると私は思うのだ。

 「事件」によって、「アメリカ」その他、周辺資本主義国は非難を始める。当然だ。

 こういった状況になると北朝鮮も情報統制を故意に緩めるのかもしれない。


 突然伝わってきた「北朝鮮バッシング」に国民はナショナリズムを喚起されるに違いない。

 「国を守らなくては」という意識が国内に充満する。

 自分たちの主君に対しての本音はまぁ置くとして、「統治者」に続け、ということになる。


 一部のイスラム過激派の人々を見ても理解できるだろう。

 派閥間の意見の相違はあれど、「アメリカ憎し」の一点では、すぐに意思統一できるのだから。

 北朝鮮の教育では「敵性国家」の教育が盛んなのは間違いない。「尊敬」の念よりも「憎しみ」の気持

ちを植え付ける方が簡単なのは言うまでもない。


 「気持ちを植え付ける」なんて・・・、とおっしゃるかもしれないが、別段不思議なことでも不可能で

もない。 

 私たち自身の価値観の原点は何か。父母との会話であり、小さい頃の経験に根ざしている。

 それら全てが、ある意思の上に築かれていたら・・・。ということなのだ。



 北朝鮮の人々は完全なる情報統制のもとに置かれていると思われる。

 多々の情報を管理され、伝えられている、というのではない。
 
 意味を持つ情報が全く与えられていないのだ。


 おそらく、毎日同じ事が同じように伝えられている。

 今の生活が、全世界共通のもので、今の生活が「自由」なのだとおもっているのだ。

 今の統治者の父から続く治世である。朝鮮戦争を語る老人は確かに統治者の業績を知るものであろう

し、その下の代にいたっては、子どもの頃から続いている世の中。仕方ないと思っているだろう。


 それでも「食べられない」という現実は、どうしようもない。

 今回の青森に到着した木造船は、その現実を表している。

 北朝鮮の人民は、今、悲鳴を上げているのだ。



 どうしたらいいのだろう。私にも分からない。

 軍事的にも民事的にも、介入することは避けなくてはいけない。

 時を待つしかないのだろう。北朝鮮の人々が毎日ご飯を食べられるようになる日を。