「雪が降る」

 私が「免許」を取ったのは、大学2年の時だ。ちなみに(「お初」が苦手な私には希なことだが)免許を取るのに不安はなかった。「普通」の人がほぼ持っている「免許」というものが取れないはずはないという意味不明な自信が、そのときの私にはあったのだ。おそらく、「車を運転できる」というモチベーションが過去にない私を生み出したのだろう。それくらい「運転へのあこがれ」は大きかったのだ。
 大学3年になった時、車が来た。車を買うお金はなかった。姉から譲ってもらったのだ。その日から、毎日車が家のようだった。2年で6万キロ走った。バイト代(月4~6万)は全てがガソリン代だった。仕送りの小遣い分もそうだ。自分でで飯を炊き、何も入っていないおにぎりだけを持ち、毎晩ドライブ。スピードを出すわけではなく、観光地に行くわけでもなく、友達と楽しいドライブでもなく、とにかく「遠くへ」というのが目的だ。どこへ行ってどうした、と細かい記憶はないのだが、忘れられない光景がある。道北の峠。深夜だ。雪が降っていた。風はない。ただ、まっすぐに雪が降っていた。瞬く間に積もっていく。道のタイヤの跡は私のだけ。周りはちっぽけな街灯しかないが、雪のせいで遠くまでよく見えた。静かだった。「幸せ」と思った。