「海」は広い。
釣り好きなくせに、私は「海」に行くと恐怖を感じる。
あまりの大きさと力に圧倒されるのだ。
自分がどうにもできない存在が、今目の前にある。
手で触れても波の動きに毛ほどの揺らぎもない。水ははねるが、「海」としての運動に何一つ影響を及
ぼせない。当たり前のことだが、それが無性に恐ろしい。
深さ11メートル(公称)の埠頭のへりに立つ時、自分の無力感を強く感じる。「地に足がつかない」
というのは、自分の心を平静に保てないたとえだが、その現実が、足下にある。
「海」の前では、私は何もできない。釣りくらいしか。
私が「海」を見たい時というのは、そんな無力感が欲しい時なのかもしれない。
ごてごてと色々なしがらみを貼り付けた「自分」も、「海」の前では一人の人間でしかない。
「素」になれるのだ。