「時代小説のススメ。」

 武士道に興味があったわけではない。

 しかし、いつからか読み始め、いつしか外せないジャンルとなった。

 時代小説。

 
 隆慶一郎さんが書いた「死ぬことと見つけたり」。

 不思議な本なのだ。

 タイトルは妙に激しい。このタイトルだけを読むと、敬遠する人が出そうなくらいに。

 
 ざらっと書くことをお許し願いたい。
 
 主人公は、毎朝起きると「死ぬ」イメージトレーニングをする。色んな死に方で。毎朝。

 その結果、「死ぬ」ことを怖れなくなる人格が生まれる。自暴自棄とはまた違う。成すべき事を自然に

行おうとする強固な意志を持った主人公が成立し、物語を作っていくのだ。


 人間は、他者とのせめぎ合いの中で自己が磨かれていく。

 そんなおぼろげな成長曲線を思い描いていた私は、驚きを持って読み進めた。

 精神的成熟が「自分」というものの中だけで完結している。「死」を通して。


 時代小説の一つの使命は、武士の時代の世界観を上手く描けるかどうかという点と、いかに現代にその

内容をフィードバックし、リアリティを追求できるかにかかっている。

 この「死ぬことと見つけたり」では、私にとって新しい「人生」の観点が含まれている。

 なかなか興味深いのだ。時代小説って奴は。